『利休にたずねよ』(山本兼一)感想 ー 道を極める人の信念と狂気

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『利休にたずねよ』は山本兼一作、2010年に文庫化し第140回直木賞を受賞した作品です。2013年には市川海老蔵さん主演で映画化されました。大胆な仮説で利休の生涯とその人柄、美に対する情熱の源泉を紐解く長編歴史ファンタジーです。

女のものと思われる緑釉の香合を肌身離さず持つ男・千利休は、おのれの美学だけで時の権力者・秀吉に対峙し、天下一の茶頭に昇り詰めていく。刀の抜き身のごとき鋭さを持つ利休は、秀吉の参謀としても、その力を如何なく発揮し、秀吉の天下取りを後押し。しかしその鋭さゆえに秀吉に疎まれ、理不尽な罪状を突きつけられて切腹を命ぜられる。利休の研ぎ澄まされた感性、艶やかで気迫に満ちた人生を生み出したものとは何だったのか。また、利休の「茶の道」を異界へと導いた、若き日の恋とは…。「侘び茶」を完成させ、「茶聖」と崇められている千利休。その伝説のベールを、思いがけない手法で剥がしていく長編歴史小説。第140回直木賞受賞作。

(本書あらすじより)

この本がおすすめの人

  • 美やアートに興味がある人
  • 利休や茶道に興味がある人
  • 人間の狂気に興味がある人
  • 「道」を極めることに興味がある人
  • 人生を変えるほどの恋愛に興味がある人

おすすめ度 ★★★★☆

本書を手にしたのは『ジャケ買い』ならぬ『タイトル買い』です。映画化されていたことなど知らず・・・同じ作家の作品を読むことが多かったので違う作品を読もうと探していた時に、日本の美術史ではもちろん有名人である利休についての作品ならいい刺激を受けるに違いないと思いました。しかし「お固くて読みづらそう」という固定観念があり、買ったまましばらく手を出していませんでした・・・

が、読んでみて、「早く読めばよかった、また読みたい」と思いました。

お固くて読みづらそうと思っていましたが非常に飽きにくく読みやすい構成になっているのがとてもよかったです。章ごとに主人公が変わる仕立てになっており、それぞれが利休と関わりながら彼について思いを巡らします。(利休本人も時折主人公になります)

ストーリーは利休が切腹して死去したところから始まり、「彼の美に対する執念はどこから始まったのか」という謎を、時代を遡りながら紐解く・・・というミステリー要素もあり、ミステリー好きの私に合っていました。

花の飾り方や茶室のしつらえ、食のおもてなしなど、茶道の美学についても随所に描かれています。

同じ一輪の花でも、利休が置くと寸分違わず「美しい」と思われる場所に佇んでいる。そのくらい美においての目が肥えている。さらに利休は茶を通じて相手の心をほぐして意のままにできるそうで、利休の茶室では心の底を読み取ったかのように自分のための心地よい空間が作られ、食事を出してくれ、お茶を立ててくれるという・・・なれるなら私もそんな人間になりたい(笑)

ただ、そのくらい美と茶道を極めるだけあって、物語を読み進めると利休の常人ならぬ意思が見え隠れしてきます。それが冒頭のあらすじにもある「緑釉の香合」との関係です。利休はとある女性とのほんのひとときの恋愛で、美の道をひたすらに極めるようになります。その恋愛がロマンティックなものだったらきっとこうはならなかったでしょうけど、そうでなかったために利休は美の道という名の狂気に目覚めます。私は利休の美の道の目覚めを狂気だと思いましたが、そうじゃない方もいるかもしれません。悲恋の末の固い信念とも思うかもしれません。

利休と女性の関係が明かされ、最初の切腹時に戻る本書のラストは好きです。読み進めるごとにだんだんとベールがはがされて、感情がむき出しになってくる感じ。仏が人間になったような。

名を残すほどの画家などは狂気的な人物も少なからずいましたが、静かなる狂気と言いますか、利休の美に対する信念とその発端までのストーリーはミステリーっぽく楽しめますし、単純に日本の侘び寂びの美学や茶道のおもてなしの作法は想像力が掻き立てられいい刺激になりました(椿の生け方の話と利休の茶室でいろんな人がご飯食べてほっこりしてる話が好き)。

利休と緑釉の香合の女性の関係なんかはいかにもフィクションぽいですが(すみません、利休の正しい史実については無知です)、映画もアーティスティックな仕上がりになっているそうですし、この本全体が一種のアート的な小説としても感じられたのが面白かったです。

個人的にもまた読みたいです。

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